このドクターに恋してる
 私が今しがた座っていたソフをすすめると、郁巳先生は頷いた。 

「陽菜さんも一緒に座って」
「はい」

 郁巳先生に手を引かれて、私たちは揃って腰を下ろした。
 一応三人掛けのソファではあるがすぐ横に座ったため、腕と太ももが微かに触れ合う。
 思いがけない密着に少し距離を空けるべきかと考え、腰を浮かせた。

「どこに行くの?」

 咄嗟に手首を掴まれ、私は動きを止めた。

「あの、ピッタリくっついてしまったから狭いかなと思って」
「このままでいいよ。もしかして不快だった?」
「そんな! 不快じゃないです。すみません」

 私は浮かせていた腰を元の位置に戻した。
 付けたままのテレビからは出演者の話し声が流れていた。私はリモコンを取り、テレビを消す。

「今日は郁巳先生もお休みだったんですね」
「うん、オンコールではあるけど」
「そうなんですね。呼び出されないといいですね」
「そうだね。今は掛かってきても応対したくないしね。陽菜さんとの時間は誰にも邪魔されたくないから」
「私も邪魔されたくないです。私、ずっと郁巳先生に会いたかったんです。あ、連絡先を交換してください」
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