このドクターに恋してる
「無理はしなくていいからね」

 優しく言う彼は私の頭を何度も撫でた。
 撫でられるのが心地よくて、心が穏やかになっていく。今日は素敵な休日だ。
 まだまだ時間があるからランチして、お出かけするのも楽しそう。

「郁巳先生……あ、ごめんなさい! 郁巳さん」

 すぐに言い直す私を郁巳さんがクスクスと楽しそうに笑う。
 こんなふうに笑うこともあるんだ……初めて見る姿に驚きつつも嬉しくなった。

「徐々にでいいからね。で、何かな?」
「えっと、お昼ご飯は一緒に食べますよね?」
「そうだね。どこか行こうか? 食べたいもの、ある?」
「そうじゃなくて、今からだとどこも混んでいると思うんですよ。だから、作ろうかと思って」
「陽菜の手料理を食べさせてくれるの? ぜひ食べたい」

 郁巳さん早速私を呼び捨てにした。すんなりと口に出せるなんて、すごい。
 私も頑張ろう。
 まずは昼食作りからだけど。


「ちょっと待っていてくださいね」

 私が調理している間、郁巳さんはテレビで情報番組を観ていた。
 ボウルに割り入れた卵をかき混ぜながら、彼の姿を確認する。
 なんだかこの部屋に馴染んでいないように見えた。やっぱりここにいることが信じられない。 
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