このドクターに恋してる
　お母さんが亡くなってから引き取られた浅葉家での料理はお手伝いさんが作っていたと言う。
　高級な食材を使用した料理で美味しかったけど、ごく普通の家庭料理が食べたいと思ったことが何度もあったそうだ。
　でも食べたいと要求することが出来なく、我慢するしかなかったようだ。

「大人になってから行った居酒屋で肉じゃがとかもつ煮といった煮物を食べたときも嬉しかったけど……このオムライスは幸せな味がする。陽菜は料理上手だね」
「ありがとうございます。郁巳さん、食べたいものがあったらリクエストしてくださいね。私、料理するのが好きなんです」　
「ありがとう。普段は外食ばかりだから、嬉しいよ。陽菜の料理好きは家がカフェだから？」
「そうです、そうです」

　父がカフェ経営をしていたこともあり、幼い頃から両親が料理する姿を見て育った。両親が忙しいときは兄と協力して作ることもあった。
　兄とこうしたらどんな味になるかなとアレンジ料理を考えることもあり、楽しい時間だった。　
　そのことを話すと、郁巳さんは「いいね」と微笑んだ。
　子どもの頃にお母さんとお菓子作りを楽しんだことがあると教えてくれる。思い出を語る彼の声は優しい。
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