このドクターに恋してる
 郁巳さんは常に私を基準に考えてくれた。私に似合うもの、私が気に入ったものを購入した。
 調理用品以外にタオルやパジャマも買い、まるで同棲でも始めるかのような買い物になった。
 いろんな店を見るのは楽しくて、時間の経つのを忘れてしまっていた。
 郁巳さんのマンションに向かう車の中から夕焼け空を見上げる。

「けっこう時間がかかってしまいましたね」
「うん。でも楽しかったよ」
「私もです」
「パジャマも買ったし、今日は泊まれるね」
「えっ」

 いきなりお泊まり?
 パジャマはそのうち使うことがあるだろうからと買った。今日使う予定ではない。

「これから買ったものを片付けるよね? もしかして俺一人でやることになる?」
「えっ? いえいえ! 私も片付けますよ」
「うん、よかった」

 荷物を運び入れてすぐに帰ろうとは思っていない。
 泊まろうとも思ってはいないが。
 しかし、お泊まりを断る理由が見つからない。
 付き合い始めた初日から泊まるのは、ちょっと恥ずかしいという理由ではダメだろうか。
 あれこれと考えているうちに車はマンションの駐車場に入っていった。

「陽菜」
「は、はい!」
「何を考えているの?」
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