このドクターに恋してる
 気持ちよさそうって、もう……。私は熱くなった顔を両手で覆い隠した。
 郁巳さんが私の手首を掴み、「陽菜?」とまた不思議そうに顔を覗き込む。

「郁巳さんの意地悪……恥ずかしくなることばかり言わないで……」
「ごめん、ごめん」

 彼は自分の胸もとに私を引き寄せて、頭を撫でた。
 一応謝ってはいるが、反省しているようには聞こえない。楽しんでいるように聞こえた。

「陽菜、好きだよ」

 彼の手は私の顎に移動して、顔を上に向かせられる。
 目を閉じると、唇が重なった。
 今回は軽く触れあうだけのキスだった。

「ん? 物足りない?」
「いえ! 全然!」

 彼から半歩離れて、私は両手をブンブンと振る。
 もしかして、物足りなそうな顔をしていたのだろうか。ちょっとだけ……もう少ししていたいなとは思ったけど。

「夕飯は外で食べようか?」
「へ? 夕飯、ですか?」

 まだキスのことを考えていた私はまったく違う話をされて、咄嗟についていけなかった。
 郁巳さんは切り替えが早いようだ。
 夕飯、そうか、夕飯……お泊まりするのだから夕飯を食べるのは当然だ。
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