このドクターに恋してる
「もう郁巳さんったら、何を考えているんですか-」
「何って、部屋に戻ってからのことだけど」
「戻ったらのんびりするんですよね?」
「のんびりしたい?」

 私は郁巳さんの腕を掴み、彼を見上げた。

「もちろんです。あちこち歩いて疲れたので」
「まだ休ませるつもりはない」
「えっ……どういう意味ですか?」

 郁巳さんは私の疑問に答えず、「フッ」と笑った。
 私は答えようとしない彼の腕を揺すり、催促する。

「ちょっとー、郁巳さーん。教えてくださよー」
「あとでわかるから、楽しみにして」
「楽しいことですか? 楽しいことなんですね? わかりました。楽しみにします!」

 本当に楽しいことなのかは不明だ。それでも郁巳さんといられることが嬉しくさに期待が高まり、意思表示として彼の腕をギュッと掴んだ。
 郁巳さんはまた「フッ」と笑い、私の歩調に合わせた。
 
 マンションに戻り、私が買ってきた食材を冷蔵庫に入れている間に郁巳さんはいそいそと動いていた。
 私が食洗機から出した食器を棚に移していると、郁巳さんがキッチンに入ってくる。

「陽菜、先に入る?」
「どこにですか?」

 キョトンとする私に郁巳さんはバスルームの方向を指差した。
 
< 142 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop