このドクターに恋してる
「一緒に入るよ」
「一緒に? 私たちがですか?」

 郁巳さんが「フッ」と笑う。

「他の人と入ると言われても困るけど」
「そ、そんなことは言いませんよ。入るとしたら、私たちだけなのはわかっています、でも……」
「でも、なに?」
「ちょっと恥ずかしいです」

 私はモジモジと手をこすり合わせた。郁巳さんがそんな私を抱きしめる。

「もうお互いに全部を見ているというのに、恥ずかしがるとか陽菜はかわいいね」
「ごめんなさい、変なことを恥ずかしがって」
「そんなこと、謝らなくていい。大浴場にも行くよね?」
「あー、はい。大きいお風呂にも入りたいです」

 私は郁巳さんの胸に埋めていた顔をあげる。至近距離で目が合い、私たちは頬を緩ませた。
 郁巳さんの顔が近付き、唇を重ねる。
 私が彼の背中に回した手にギュッと力を入れると、郁巳さんもギュッとしてくれた。
 私はまた彼の胸に顔を埋めて、心臓の音を聞く。早く大浴場に行かなくてはと思うのだけど、別々の場所に行くことに離れがたくなる。
 何分抱き合っていたかわからないが、郁巳さんに背中をポンと叩かれて、やっと動きだした。
 チェックインしたときに選んだ浴衣に着替えて、入浴の準備をする。
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