このドクターに恋してる

　私の横まで来た宇部先生は車の中を覗き込んで、顔をしかめる。
　宇部先生も業務終了後らしく、私服だった。

「院長の奥さまと光一先生……何をなさろうとしているのですか？」
「宇部先生には関係ないことよ。その人に話があるの。あなた、早く乗りなさい」
「ちょっと待ってください。約束しているわけではないですよね？　院長と郁巳は知っているのですか？」
「夫にも郁巳にも関係ないことだから」
「そんなわけないでしょう。お待ちください、今院長に連絡を取りますので」

　宇部先生は上着のポケットからスマホを出して、操作しようとする。
　そのとき、車の窓が閉まり、車が動き出した。
　院長に連絡されては困ると判断したようだ。
　走り去っていく車を目で追っていた宇部先生が息を吐く。

「行ったか」
「宇部先生、助かりました。ありがとうございます」
「いいよ、気にしないで。しかし……陽菜ちゃんが一人でいるときに接触するなんて、ひどい人たちだね」
「どうしたらいいのか困りました。あとで郁巳さんに話します」
「うん、そうしたらいいよ。郁巳に話せば、院長にも伝わるだろう。それより陽菜ちゃん、結婚が決まったらしいね。おめでとう」