このドクターに恋してる
 希子さんに指摘された私は慌てて、手で口の周りを拭った。
 希子さんがプッと噴き出す。

「嘘よ」
「えー、希子さんったら、ひどいですよ。でも噓でよかった-」

 私が安堵している間に見ていた二人の医師は遠ざかっていた。
 あーあ、一瞬だったな。
 少しでも立ち止まってくれたらいいだけど、いつ見ても忙しそうだ。
 先ほどの二人はここの病院でイケメン医師と呼ばれている。

 院長の息子の浅葉郁巳(いくみ)先生は外科医で、年齢は三十四歳。百八十センチの高身長でスタイルと顔がよい。清潔感のある黒くて短い髪は、キリッとした顔立ちによく似合っている。
 浅葉が苗字の先生は、この先生のほかに院長とお兄さんで内科医の光一(こういち)先生がいる。そのため紛らわしくないように郁巳先生、光一先生とみんなは呼んでいた。

 もう一人のイケメン医師は、小児科医の宇部(うべ)圭介(けいすけ)先生。郁巳先生と同い年で、こちらも顔面がよい。身長は浅葉先生より五センチくらい低いが、同じように細身だ。髪はくせ毛なのかパーマをかけているのかは不明だが、軽いウェーブでふんわりしていてパッチリとした目がアイドルみたいだ。

 俳優並みに整った顔立ちの二人を見ていると、医療ドラマを観ているかのような錯覚におちてしまうことがしばしばあった。
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