このドクターに恋してる
 今日も帰る郁巳先生に遭遇するかもしれないと、病院を出てからキョロキョロと辺りを見回した。特に駐車場のほうに目を凝らしたが、軽乗用車が出てきただけだった。

 数分間、寒空の中で郁巳先生が現れるのを待ってみたが、暗い中でポツンと立っているのが虚しくなる。
 私はいったい何をしようとしているのか……。
 時間を確認して、マフラーに顔を埋めた。そのとき背後からの視線を感じて病院を振り返ったが、誰もいなかった。気のせいだったようだ。
 腕時計でふたたび時間を確認して、バス停まで小走りした。のんびりと郁巳先生の姿を探していたから、バスが来る時間ギリギリになっていた。
 程なく来たバスに乗って、次のバスを待つはめにならなくてよかったと空席に腰を下ろした。

 病院は木々に囲まれているから、バスからは病院の屋根部分しか見えなかった。小さく息を吐いて、流れていく景色を眺める。
 ひんやりとした空気の中で、月がくっきりと見えた。
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