このドクターに恋してる
 本日カフェは通常より早めに閉店し、パーティーのための準備を進めていた。
 カフェに入ると、母と美久さんが忙しそうに動いていた。いくつか寄せたテーブルには、大きな白いテーブルクロスが掛かっている。
 母と美久さんがその上にグラスやカトラリーを並べた。
 
 私はカフェのユニフォームの白いシャツに黒いズボンを着用し、茶色いエプロンを着けた兄に近寄った。

「お兄ちゃん、私もなにか手伝うよ」
「おう、ありがとう。でも、美結と遊んでもらえたら助かる」
「わかった。みーゆ、本を読もうか?」
「うん、もってくる」

 コートを脱いだ美結がレジカウンター方面に走って行く。
 レジカウンター近くの棚には、新聞や雑誌のほかに子ども向けの絵本を陳列していた。子連れの人にも気軽に来店してもらうためである。兄の代になって、お子さまプレートをメニューに加えていた。
 常連客から子どもが騒がしいと苦情が寄せられるかなと危惧していたが、幸いにも心優しい客ばかりでこれまでの一度も苦情は言われていない。

 一冊の絵本を選んで戻ってきた美結は、私の膝の上に座る。ゆっくり読み進めていると、カフェのドアが開いた。
 「こんにちはー」と入ってきたのは、宇部先生と郁巳先生だった。
 美結が私の膝から飛び降りて、一目散に先生たちへ向かう。
< 23 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop