このドクターに恋してる
　それにしても、この二人とプライベートで会うことになるとは思いもしなかったな。
　美結が入院でお世話になったからというだけで呼ぶのはいかがなるものか思われることなのだが、理由はほかにもあった。

「圭介くん、来てくれてありがとうね」

　母が宇部先生に向かって親しげな笑みを浮かべる。
　実は、宇部先生は母の知人の息子さんだったのだ。
　母は店の手伝いで忙しかったこともあり、私よりも美結を見舞うのが遅く、入院三日目にしてやっと行けた。
　そこで宇部先生に挨拶した母は、宇部先生の顔を穴が空くほど眺めたらしい。そして、発した言葉が「もしかして、聡子(さとこ)さんの息子さん？」だった。

　初めて会う人から出てきた自分の母親の名前に宇部先生は当然ながら、驚いたという。
　母と宇部先生のお母さんは、昔同じ職場で働いていた。宇部先生のお母さんは結婚退職して、夫の仕事の都合で岡山県に移り住んだ。宇部先生はそこで生まれ育ち、大学進学で上京したそうだ。
　母と宇部先生のお母さんは年賀状のやり取りをするだけで、ほぼ疎遠状態だった。お互い子どもが生まれたと簡単な報告しかしていなかったが、宇部先生はお母さんによく似ていたからもしやと思ったとか。

　宇部先生は母からグラスにウーロン茶を注がれ、「ありがとうございます」と微笑んだ。
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