このドクターに恋してる
「母が今度こっちにきたときに、こちらへぜひ寄りたいと言っていました」
「まあ、楽しみ!」

 声を弾ませる母の横で、兄が郁巳先生のグラスにウーロン茶を注ぎながら話す。

「ほんと、世間は意外に狭いですよね。母たちが知り合いだったなんて、聞いたときはびっくりでしたよ」

 私と美久さんは合わせて、うんうんと頷いた。
 宇部先生が母の知人の息子さんということで、ここに呼ぶようになったのだ。気兼ねなく来てもらうために、宇部先生と仲の良い郁巳先生も招いた。
 しかし、母同士が知り合いだからと言って、私と宇部先生の関係が変わったわけではない。すれ違ったときに挨拶するだけだった。
 
 アルコールが苦手の美久さんもウーロン茶にして、兄と母と私のグラスにはスパークリングワインが注がれた。先生たちにも兄がすすめたのだが、二人とも今日はオンコール勤務だからと断った。
 美結のグラスに入っているのは、オレンジジュースだ。

 兄が立って、コホンと咳払いをした。

「今日は美結のためにお集まりいただき、ありがとうございます。えっと、乾杯の音頭は……陽菜! お願いします」
「ええっ、私?」
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