このドクターに恋してる
 突然の指名に私は驚いた。そんな役、聞いてないってば……前もって言ってよ……。
 私は兄に恨めしげな視線を送り、渋々と居心地のよくない場所で立ち上がった。先生たちも立とうとするが、兄が「そのままでいいです」と制止する。

「えっと、あの……」
「ひなちゃん、はやくー、かんぱいしてー」

 何を言おうかと迷う私を美結が急かした。

「うん、わかった。みーゆ、元気になってよかったね! 美結の四歳の誕生日を祝って、かんぱーい!」

 私は早口で言い、グラスを持ち上げた。「かんぱーい」とみんなの声が揃ったのを聞き、ホッと胸をなで下ろして座る。

「陽菜ちゃん、乾杯」
「はい、乾杯です」
 
 右隣りの宇部先生にグラスを向けられ、乾杯を交わした。
 グラスに口を付けようとすると、左肩を郁巳先生にトントンと叩かれる。

「俺と乾杯はしてくれないんですか?」
「えっ、あ、すみません。乾杯」
「ん、乾杯」

 まさか郁巳先生からも乾杯をお願いされるとは思ってもいなかった。先日の一件以来、挨拶さえもまともにしていなから避けられていると思っていた。
 郁巳先生ともグラスを合わせて、私はようやくスパークリングワインを飲むことができた。
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