このドクターに恋してる
 不意に左側から手が伸びてきた。
 私は少し離れた場所の唐揚げを取ろうとしていたのだが、手前にあるエビチリに袖が付きそうになっていた。素早く気付いた郁巳先生の手によって袖がまくられる。
 見られているとは思わなく、恐縮した。

「すみません。ありがとうございます」 

 平然とお礼を伝えたが、私の心は大暴れしていた。 
 郁巳先生、さりげなく助けてくれるなんて、意外と優しい。
 どうしよう、ドキドキしちゃう。

 そんな郁巳先生の服装もシンプルで、Vネックの黒いニットにベージュのチノパンを身につけていた。こちらも宇部先生に負けず、かっこいい。

私は動揺を悟られないようにしつつ、宇部先生の前に皿を置いた。

「宇部先生、どうぞ。ほかに食べたい物があったら、言ってくださいね」
「ありがとう。陽菜ちゃん、盛り付け上手だね。とても美味しそう」
「いえ、そんな……」

 宇部先生は気遣い上手で、褒め上手だ。こんな些細なことにお礼を言い、褒めてくれる人はそうそういない。
 なんだかこの優しい二人に間にいると、自分が特別に扱われているように感じてしまう。
 やばい、やばい。
 二人は美結のために来てくれているのだから、勘違いしてはいけない。
 でも……この場所は緊張するけど、最高かも!
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