このドクターに恋してる
 昔、兄にいないと断言された医師が現実にいるのだから妄想してしまうのは仕方ない、と私は勝手に解釈している。今も二人の会話は難しいオペのことかなと勝手な想像をしていた。
 希子さんが私の肩を抱いて、小声で話す。

「ねえ、陽菜。見ているだけじゃつまらなくない? たまには当たってきたら?」
「どういうことですか? 当たるって……」
「あそこまでハイスペックな人たちの彼女になるのは難しいだろうけど、可能性ゼロではない。だから、せめて話をするために当たるのよ」
「まさか、体当たりしろと?」

 私は百六十センチの自分よりも七センチほど高くショートボブヘアの希子さんを見て、顔をしかめた。とんてもない冗談を言うもんだなと。
 私の心は希子さんに見透かされていた。

「冗談で言っていると思っているでしょ? まあ半分は冗談だけど、半分は本気だからね。あの二人に今彼女がいないというのは、この病院で働く女性なら誰もが知っている事実。もちろん陽菜も知っているでしょ?」
「知っていますよ。でも、私はちゃんと自分の手の届く方たちではないと言うことも承知しています」

 同じ病院で勤務しているとはいっても、私は医療従事者ではなくてただの事務員だ。医師とは直接関わることがない場所にいるから、向こうは私のことなんて知らないだろう。
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