このドクターに恋してる
 でもでも、浮かれすぎてはいけないとは思う。
 私は舞い上がっている自分を周囲に気付かれないよう、唐揚げをおとなしく咀嚼した。
 そんなとき、兄がとんでもないことを言い出す。 

「そういえば、陽菜が言っていたのって、宇部先生と郁巳先生のことだろ?」
「お兄ちゃん、待って!」

 兄が言おうとすることが予測できた私は話の続きを止めようとして、兄に手を向けた。だが、宇部先生が聞きたがってしまう。

「俺たちのことって、なんですか? 陽菜ちゃんから何を聞いたんですか?」

 兄は残り少なくなっていたスパークリングワインを飲み干して、興味津々の宇部先生に顔を向けた。

「実はですね、かっこいい先生が二人もいるの! と陽菜が病院に勤め始めたころに言っていたんですよ」

 あーあ、言ってしまった。
 私は何度、この二人の前で恥ずかしい思いをさせられるのだろうか。
 両手で顔を覆って、項垂れる。
 兄が楽しそうに話を続けた。

「陽菜が高校生のときだったかな。医者が主役のドラマを見て、あんなかっこいいお医者さんに巡りあいたいと夢見たんですよ。俺はドラマだからかっこいいのであって、現実にかっこいい医者はいないと言ったんですけど、探せば一人や二人くらいいるはずだと言いましてね。で、病院にいた!と報告してきたんです。マジかよと信じられなかったんですけど、お二人を見たときに陽菜が言っていた医者だとすぐにピンときました」


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