このドクターに恋してる
 どうして私の周りは口の軽い人ばかりいるのだろう。本人を前にして言われたら、困るというのがわからないのか……。
 美結が「パパー」と兄を呼んだ。

「おう、美結。なんだ?」
「ひなちゃんはね。せんせーのファンなんだって-」

 子どもは忘れてほしいことほど、よく覚えている。美結の脳を操作したくなるもんだ。
 兄が美結に「そうか、そうか」と嬉しそうな返事をした。

「陽菜、よかったな。憧れの人と食事ができるなんて、最高の気分だろ?」
「今は最悪の気分なんだけど……」
「何でだよー」

 兄の気遣いのない暴露のおかげで気分は悪いほうに変わった。本人の前で言われて、いい気分になる人なんかいないだろうに。
 いまだに項垂れている私を宇部先生が気遣ってくれる。

「陽菜ちゃん、お兄さんに悪気はないと思うよ。俺たちは気にしないから、陽菜ちゃんも気にしないでいいから」
「……ありがとうございます」

 宇部先生の慰めの言葉が身にしみる。ほんと、優しい!
 だが、家族の前だから手放しでこの優しさを喜べない。浮かれたら、またネタのされてしまうだろう。
 複雑に思いながらも気を取り直して、フライドポテトを食べていた美結のところに行った。
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