このドクターに恋してる
 大人の会話の中に出てきた自分の名前に美結が反応する。

「みゆ、うべせんせーもいくみせんせーもだいすきだよ」
「ありがとねー」
「ありがとう」

 先生たちは美結に優しく答えた。
 宇部先生と郁巳先生が大人にも子どもにも人気なのが、あらためて実感できる返事の仕方だった。どんな小さいことでも親身になって聞いてくれるいい先生だと患者さんが言うのを、聞いたことがある。
 私は郁巳先生に顔を向けた。

「郁巳先生は難しい手術でも成功させるスーパードクターだと言われていますよね。ほんと尊敬します」
「スーパードクターか……そんな立派なことはしていないですよ。救える可能性があるなら、諦めないで取り組んでるだけなんです」
「その諦めないという気持ちが大事だと思います。お医者さんが諦めないから、きっと患者さんは信頼して任せることができるんですよ」
「そんなふうに言ってもらえると……嬉しくなります」

 嬉しいとは言うけれど、郁巳先生の口調は淡々としていて表情も嬉しそうに見えない。
 美結に向けていた表情は柔らかかったから、私の言い方が悪かったのかも。
 それか、いつも言われているからありがたみを感じないとか?
 郁巳先生とは、なかなか打ち解けて話せそうにない。だからと言って、宇部先生と打ち解けているというわけではないが。
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