このドクターに恋してる
 宇部先生ったら、優しすぎる。こういう立派な人は、人を貶したことはないだろう。
 私は感動で目を潤ませた。

「宇部先生、ありがとうございます。そんなふうに言ってもらえたのは初めてです」
「そんなお礼を言われるようなこと、言ってないよ。陽菜ちゃんは大げさだねー」
「そういうふうに言うところが優しいんですよー。私一生、先生のファンでいます!」
「一生って、ますます大げさだ。陽菜ちゃんと話すの、ほんと楽しい」

 笑う宇部先生に対して、郁巳先生は黙々と食べていた。
 私は郁巳先生に視線を移す。
 聞いてみたいけど、また冷たく返されるかな……でも、聞きたい。

「あの、郁巳先生が医者を目指すようになったきっかけは……あ、お父さんもお医者さんですものね。小さいときから医者になるのが当たり前みたいな感じでした?」

 私の質問に郁巳先生は一瞬動きを止めて、ゆっくりと目を私に合わせた。
 
「ん、そんなとこ……」

 なんとなく合っているといった曖昧な答えに聞こえた。もっと深いきっかけがあったのかもしれない。
 親が医者だから医者になったのだろうと安易な考えを口に出した私が悪い。
 聞き方を間違えた……。

「郁巳先生、すみません」
「えっ?」
< 36 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop