このドクターに恋してる
 川田さんが突然くるりとこちらを向いて、小走りしてきた。私と希子さんは慌てて、出入り口から離れる。
 近くの外灯が川田さんを照らしたが、俯いていたのでどんな表情をしているのか判別できなかった。

 私と希子さんは川田さんの背中を目で追ってから、ふたたび外に顔を出した。その瞬間に私たちの体が飛び跳ねる。
 いつの間にか宇部先生がこちらまで来ていたからだ。

「あ、お疲れさまです」
「お疲れさまでーす」
 
 慌てる私たちに宇部先生は気まずそうにする。
 
「お疲れさまです。気をつけて帰ってください」
「はい、ありがとうございます」

 私と希子さんはそそくさとこの場を離れようとして、宇部先生に背中を向けた。

「陽菜ちゃん、待って」
 
 早く帰ろうとしたのに宇部先生に呼び止められた。呼び止められたのは私だけだが、希子さんも宇部先生を振り返る。
 宇部先生は希子さんの視線を気にしつつ、口を開いた。

「さっき、なにか聞こえた?」
「なにかって……」
「川田さんとの会話」

 私は首を横に振る。

「聞こえませんでしたよ」
「そう」

 安堵した様子の宇部先生を希子さんが鋭い目で見た。
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