このドクターに恋してる
 宇部先生は手を掴んだままで私に顔を寄せた。

「あれ? 陽菜ちゃん、顔が赤いよ。もしかして俺のこと、意識してくれてる?」
「もしかしてもしなくても、意識しちゃいます。だって、こんな簡単に手が繋がるなんて……どうしたらいいか……」
「陽菜ちゃんは俺のファンだというけどさ、俺はテレビでしか見られない芸能人じゃないよ。同じ病院で働いている仲間なんだから、話もできるし、触れることもできるのは当たり前でしょ」
「でも!」

 たしかに芸能人ほど遠い存在ではない。でも、普段医師と関わることがない私にしたら、気軽に近付ける存在ではないのだ。
 返す言葉に迷っていると、出入り口から二人の女性が出てきた。看護師だが、勤務終了後のようで二人とも私服だった。
 
「宇部先生! こんなところにいたんですか? 郁巳先生が探していましたよ」
「そうそう、みんなに知らないかと聞いていましたよ」

 宇部先生は私の手を離して、腕時計を見た。

「うわっ! もうこんな時間。教えてくれて、ありがとうございます」
「いえいえー、お先に失礼します」
「お疲れ様です」

 二人の看護師にチラッと見られて、私は体を少し縮み混ませる。二人が遠ざかっていく間、宇部先生はポケットからメモ帳を取り出し、なにかを書いていた。
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