このドクターに恋してる
「いたっ!」

 持っていたスマホが手から落ち、前の座席に額をぶつける。強い痛みが走ったとき、バスが止まるのを感じた。

 何が起こったの?
 事故?

 あちらこちらから呻き声が聞こえてくる。
 どうやらバスは何かと接触したらしい。私はジンジンと痛む額をさすりながら、周囲を見回した。前方で数人が床に折り重なっていた。
 立っていた人たちが倒れたようだ。

 こういう場合はまず何をしたら……とりあえず救急車を呼ばなくてはいけない。
 足もとに落ちていたスマホを拾い上げて、耳を澄ませた。早々と呼んでいる人がいるかもしれないからだ。
 事故を目撃していた歩行者がスマホを耳に当て、事故で多くの怪我人がいるようですと話しているのが聞こえた。
 それから数分後、救急車とパトカー到着する。幸い、乗客は全員意識があった。歩行が困難で重傷と思われる人から順番に救急搬送されていく。 
 
 私は職場に電話して、事故に巻き込まれたことを話し、遅刻することを伝えた。
 最後の救急車にほかの軽傷者と一緒に乗り、流れていく景色を見つめる。バスが通っているルートを進んでいき、私が降りる予定のバス停を通り過ぎ、すぐに右折すると浅葉総合病院のロータリーに着いた。

 
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