このドクターに恋してる
 あ、やっぱりここか……。
 近くの病院だから、もしかしたらここにたどり着くかもと予想はできていたが、待機している医師や看護師を目の前にすると降りにくなった。

「あら、岩見さん。バスに乗っていたの? 大丈夫?」

 見知った五十代の看護師が寄ってきて、私を上から下まで見て怪我の様子を確認した。

「おでこをぶつけただけで済みました。ちょっとこぶになっているみたいですけど、大丈夫ですよ」
「ちょっと見せて。あー、赤くなっているし、膨らんでるわね。先生に話してくるから、待っていてね」

 外来診察室前の椅子に座り、少しの間待った。すると、看護師は郁巳先生を連れて戻ってきた。郁巳先生は腰を屈めて、私をジッと見つめる。

「おでこ、見せて」
「ここで、ですか?」
「中は混み合っていますからね」
「あ、はい」

 私が前髪を上げると、郁巳先生は覗き込んできた。診察のためだとわかっていても、整った顔が間近に迫ってきたことで私の心臓は暴れだす。
 わわ、どうしよう、近い!

 郁巳先生は私の動揺を察することなく、額に手を触れる。軽く押されて、痛みを感じた。

「痛い! ……です」
「うん、腫れているね。頭とか膝とかほかに打ったところはないですか? 吐き気がするとかも気分は悪くないですか?」
「ほかは痛いところはないですし、気分は悪くないです」
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