このドクターに恋してる
 サラリと耳を疑うようなことを言って、郁巳先生は氷のうを私の額に戻した。

「えっ、郁巳先生が?」
「は? 郁巳が?」

 私と宇部先生の驚く声が重なる。宇部先生が郁巳先生の背中をパンパンを叩く。郁巳先生が眉間にしわを寄せた。

「なんだよ、痛いな」
「なんで郁巳が俺の役を奪おうとするんだよ?」
「圭介の役?」
「郁巳、俺に意地悪してるだろ? 俺の気持ちをわかってるくせに」
「お前の気持ちなんて、どうでもいい。俺が送りたいだけだから」

 郁巳先生の発言に宇部先生は目を見開いて、郁巳先生の肩を掴んだ。

「なんで送りたいと思うんだよ?」
「一応俺の患者だしね」
「郁巳、患者を送ったことなんかないよな?」
「ないけど、それがかなにか問題か? 岩見さんは普通の患者とは違うだろ? 同じ病院で働いているし、美結ちゃんのことでお世話にもなったしね」
「まあ、ほかの患者とは違うけどな……いや、でもな!」

 郁巳先生の言い分に納得しかけていた宇部先生は我に返ったかのように、声を張り上げる。
 それをすかさず、郁巳先生が咎めた。

「おい、大きい声を出すな」
「あ、悪い」

 取り乱す様子が宇部先生らしくない。
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