このドクターに恋してる
 宇部先生は声をひそめて、言葉を続ける。

「とにかく、郁巳は休憩時間にはちゃんと休憩をしろ。陽菜ちゃんは俺が帰るついでに送るから任せて」

 郁巳先生は不機嫌そうな顔でため息をついた。

「わかったよ、任せる。岩見さん、お大事に」
「あ、はい」

 郁巳先生がいなくなり、宇部先生と私は顔を見合わせて苦笑した。

「まったく、郁巳はわけがわからないな」
「そうですね、予想もしないことを言うのでビックリしちゃいました」
「俺が責任もって送るね」
「ありがとうございます」

 郁巳先生の言動は不可解だったが、深く考えないようにして私は宇部先生の厚意に甘えた。
 職場に顔を出し、休みをいただきたいと頼んだ。上司は体を労ってくれて、すんなりと欠勤を許可してくれる。
 希子さんは涙目になっていた。

「もう、心配したよー。ほんと無事でよかった」
「心配してくれて、ありがとうございます。ご迷惑かけちゃうんですけど、よろしくお願いします」
「仕事のことは気にしなくていいから、今日くらいはゆっくり休んでね。宇部先生、陽菜を頼みます」

 宇部先生は「お任せください」と胸に手を当てた。そのポーズが素敵すぎて、私はめまいを起こしそうになる。
 一瞬ふらついた私を宇部先生が支えた。
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