このドクターに恋してる
「陽菜ちゃん、大丈夫? 車まで抱えていこうか?」
「あら、素敵! お姫さま抱っこしてもらいなさいよ」

 私よりも先に希子さんが嬉しそうな反応をした。
 私は手をブンブンと大きく振る。

「な、何を言っているんですか! 自分の足で歩けるから、大丈夫です」
「そうか、残念だな」
「残念ですよね-」

 宇部先生と希子さんは揃って、肩を落とした。変なことで意気投合するのは、やめてほしい。
 
「でもほんと、元気な顔が見れてよかった」
「うんうん」

 心配してくれる人がいるのはありがたいことだ。
 職場を出て、駐車場に行く。宇部先生の車は、左ハンドルの外車だった。外車に乗るのが初めての私は、慣れない右側の席で背筋を伸ばす。
 
「陽菜ちゃん、らくに座ってね」
「はい……」

 緊張しているのがバレて、さらに顔が強張った。宇部先生は発進前にガムを差し出した。

「リラックスできると思うよ」
「ありがとうございます」

 どこまでも気遣ってくれる優しい人だ。もらったガムは大事にしておきたいが、そういうつもりで渡されていないから口に入れる。
 ふと横を見ると、宇部先生もガムを噛んでいた。


   
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