このドクターに恋してる
 ガムを噛みながら、ハンドルを握る姿もかっこいい。ガムか車のCMを見ているようだ。
 宇部先生の運転は滑らかで、振動をほとんど感じなかった。バスだと二十分かかる距離が、十分で到着する。

「もう着いちゃったね。短くて、ドライブにはならなかったな」
「送っていただき、ありがとうございます」
「今度はもう少し長いドライブをしようね」
「今度……」
「もしかして、もう二度と乗りたくないと思ってる? 慎重に運転したつもりだけど、気分が悪くなったとか?」

 シートベルトを外した私は慌てた。

「いえ、全然! もう乗りたくないなんて、一ミリも思っていないですよ。また今度があるなら嬉しいなと思っていたんです」
「そんなふうに思ってもらえてるなら、俺のほうが嬉しくなるよ。このままずっと話していたいけど、疲れさせちゃうから帰るね。今日はゆっくりしてね」
「はい、ありがとうございます」

 宇部先生の車が見えなくなるまで見送った。もう正午近い時間に@なっていた。
 災難に巻き込まれた日だったけど、宇部先生にかなり優しくしてもらえたからそんなに悪い日ではない。
 デートがますます楽しみになってきた。あと何日と毎日指折り数えてしまいそうだ。
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