このドクターに恋してる
「変わりはないです」
『明日は仕事に行けそうでしょうか?』
「行く予定にしています」
『様子を見に行きますね』
「えっ、私の?」
『もちろん。じゃ、また明日』

 短い通話だった。心配してくれていたが、電話してくるほどのことではないと思う。郁巳先生の行動は謎なことが多いな。
 私はベッドに寝転がり、額に手の甲を付けた。まだ痛みはある。
 この程度の怪我で済んだのはよかったが、一歩間違えば重傷どころか命を落とす可能性もあった。
 もしバスが炎上とか爆発とかしていたら……考え出すときりがないけど、命の大切さを思い知らされる。
 本当に助かって、よかった。

 ピンポーン……ホッとしているときにインターホンが鳴った。平日の昼間に誰だろうか。
 なにかの勧誘かなと思い、ゆっくりと体を動かし、モニターを確認する。

「えっ、お母さん?」
『陽菜-』

 母が手を振っていた。玄関のドアを開けると、抱きつかれる。
 私は突然のことに狼狽え、母の背中を軽く叩いた。

「ちょっと、お母さん。どうしたのよ、急に」

 母は私の頬を触り、ジッと見つめる。
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