このドクターに恋してる
「事故に遭ったと聞いて、ビックリしたのよ。もう、どうして連絡くれないの?」
「聞いたって、誰に?」
「圭介くんよ。陽菜を送った帰りだとお店に寄ってくれて、おでこを打ってるから気にかけてもらえますかと言われたの。どこ? どこを打ったの?」

 おでこだと聞いているくせに、母はなぜか頭や腕を見ていた。

「お母さん、落ち着いて。打ったのは、ここ。少し膨らんでいるけど、大丈夫だよ」
「あ、ここ……あー、こぶになっているわね。本当にここだけ? ほかには痛いところはないの?」

まるで小さい子どもに聞いているようだ。母にとっては、いくつになっても私は子どもらしい。

「心配かけて、ごめんね。たいしたことないから連絡しなかったんだ。あとで話せばいいかなーと思ってね」
「宇部先生も元気だとは言っていた。でも、顔を見るまでは安心できないじゃないの」
「そうだよね。忙しい時間なのに、来てくれてありがとう」
「お兄ちゃんも心配していて、行ってきていいよと言ってくれたのよ」
 
 母は話しながら感極まってきたのか、涙声になっていた。私は母をソファに座らせて、コーヒーを淹れる。
 母はコーヒーを飲み、ようやく落ち着きを取り戻した。
 
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