このドクターに恋してる
「元気そうでよかったです」

 よかったと言う割には、喜んでいるようには見えない。
 普段から感情を表に出さないのだろうけど、なにを考えているのかわかりにくい人だ。

「元気なので、普通に仕事もできています」
「それはなにより」
「はい」

 診察というか、会話終了かな?
 私の様子を確認し終えたら出ていくと思ったのだが、郁巳先生はなぜか沈黙してそこから動かない。
 郁巳先生の視線は私の額よりも上にあった。どうしたのだろうか、ほかに用事があるのだろうか。
 私が首を傾げて「郁巳先生?」と呼ぶと、郁巳先生は目線を下げて私と目を合わせる。

「ん、なに?」
「いえ、あの、まだなにかありますか?」
「ないですよ」
「はあ、そうですか。もう業務に戻ってもいいでしょうか?」
「ああ、どうぞ。俺も……戻りますから」

 少し歯切れの悪い返事だったが、郁巳先生がやっと動き出したので、私は肩の力を落とす。
 わざわざここまで来た理由はよくわからなかった。ただこぶがあるだけの患者の様子をを見に来るにしてはおかしい。
 なんのために私の顔が見たかったのだか……。

 希子さんと受付対応の交替をした私は業務を進めながら、頭の隅で郁巳先生のことを考えていた。


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