このドクターに恋してる
「その後、どうなの?」
「その後とは、何のことのその後ですか?」
「郁巳先生とのことよ。一昨日の帰りには引き止められていたし、昨日は送ってもらったんでしょ? 事故でそんな話できなくなっていたけど、気になっていたんだからね。ちゃんと聞かせてよ」
「あー、そのことですか……実はですね」

 私は希子さんと同じように周囲に注意して、宇部先生を名前を出さずに話した。
 宇部先生に好意を抱いている人は少なくない。誰かの耳に入り、あらぬ噂をされたり、恨みを買いたくはない。
 希子さんは私の話に「おお!」と小さく驚きの声を上げた。

「すごいじゃないのよ。デートにまでこぎつけるなんて、立派よ」
「なんか信じられなくて、いいのかなと何度も思ってしまうんです」
「いいに決まっているじゃないの。向こうから誘ってきたんだから」
「そうですよね。でも、まだ一週間も先なのに緊張しちゃいます」
「今から緊張しているなんて、当日になったらどうなるのか」

 希子さんはおかしそうに笑って、ご飯を口に入れた。私はミニトマトを口に放り込み、箸を置く。
 宇部先生と食事する日は来週の金曜日だ。
 それまで私の脳内でどれだけの妄想を繰り広げるだろう。
 今も目の前にいるのが希子さんではなく、宇部先生だったら……と考えてしまっている。
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