このドクターに恋してる
 美結のパーティで一緒に食事はしたけれど、それとは明らかに違うシチュエーションだ。
 夜景の見えるレストランで憧れの人と食事……目の前にはニッコリと微笑む宇部先生……、
 弁当は半分くらい残してばんやりする私の前で、希子さんが手を振る。

「おーい、陽菜。食べないの? 具合悪い?」

 意識がデートに向いていた私はハッと我に返った。

「あ、いえ、食べます!」
「もう心配になるじゃないのよ。昨日の今日なんだからね。どこか傷むのかと心配になるじゃないの」
「ごめんなさい。痛みは少ししかないです」

 心配してくれる希子さんに両手を合わせて、謝った。
 希子さんは小さく息を吐き、マグボトルに口をつける。たしかに昨日の今日だから、いまだに心配するのは当然だ。
 そういえば、郁巳先生もそうだったのかな……。

「郁巳先生も心配してくれていたんですよね?」
「どういうこと?」

 私の疑問に希子さんが首を傾げた。

「私の顔が見たかったなんて言うから、ちょっと不思議に思って」
「え? ちょっと、待って。顔が見たかったと、言われたの?」

 希子さんは受付で応対中だったから、私と郁巳先生のやり取りは聞いていなかったらしい。私はコクリと頷いた。
 希子さんが口を手で押さえて、また周囲を見回した。
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