このドクターに恋してる
 先生たちから離れたのち、希子さんが私に身を寄せた。希子さんも郁巳先生の態度が気になったようだ。

「郁巳先生、不機嫌そうじゃなかった?」
「希子さんもそう見えました?」

 私たちは遠ざかる先生たちの後ろ姿を見て、小声で話した。

「だって、怖い顔で陽菜を見ていたわよ。なんか、睨まれるようなことをした?」
「してないですよ。宇部先生とちょっと話しただけです。希子さんも見ていましたよね?」
「うん、宇部先生との会話に問題はなかったよ。和やかだったし……まさか、和やかなのが気に入らないとか?」
「ええっ、そんな理由はさすがにないと思いますよー」
「そうよね。そんな理由だったら、心が狭すぎるわね」

 私はうんうんと頷いた。
 郁巳先生はやはり謎多きという感じがする。本当になにを考えているのか、まったく読み取れない。
 気難しい人だよね……。
 顔を見たかったと言ったのにも特に意味はなかったのかもしれない。
 私は深く考えないようにしようと思い、勝手な解釈をした。
 
 あれこれと考えていたせいか、パソコンで入力作業をしていたせいか、頭が痛くなってきた。
 私は業務を一時中断させ、希子さんに断ってトイレへと向かう。
< 69 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop