このドクターに恋してる
 肩が凝っているのを感じて、軽く揉みながら歩いていると「岩見さん」と後ろから呼ばれた。
 背後からの人の気配をまったく感じない中での突然の呼びかけに、驚いて体が飛び跳ねた。

「わっ……あ、郁巳先生……」

 郁巳先生が私の肩を指差した。 

「肩、痛いんですか? 事故のせいで?」
「あ、ただの肩凝りです。事故とは関係ないと思います」
「ちょっと、触ってもいいでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ……」

 事故は関係ないと話しても、自分で確認したいようだったので郁巳先生に背中を向けた。
 郁巳先生の手が左肩に触れる。

「こっち側ですか?」
「そうです。どちらも凝っていますけど、そっちの方が痛くて……」
「うん、張っていますね。温湿布を処方しましょうか? あ、でも……俺はこれからオペの予定があって……ほかの先生に頼んでおきますよ」
「いいえ! そんな先生の手を煩わせなくても、大丈夫です。帰りにドラッグストアで買いますから。温めるのがいいんですね、わかりました。ありがとうございます」

 私は早口で話して、頭を下げた。
 忙しい郁巳先生といつまでもここで話していたら迷惑になると思うのに……郁巳先生はなぜか動こうとしない。

「どうして、お礼?」

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