このドクターに恋してる
 まだ話し続けるとは思わなかった。時間は大丈夫なのだろうか。
 腕時計にサッと目を走らせると三時近い時間だった。これからとはいつなのだろう?
 まもなくではないのかな……。
 時間が気になるが、質問に答えないと動かないように思えた。

「なぜって、あの、肩凝りを気に掛けてくれてましたから」
「俺が誰にでも気に掛けると思っている?」
「えっ? はい……患者さんになら、どなたに対しても気遣うのではないかなと思いますけど」
「違う。岩見さんだからだよ」
「私だから?」
「うん。気になるんだよね。顔が見たくなるくらいにね」

 いつの間にか、郁巳先生は敬語を使っていなかった。なんだか素の自分を見せているような様子に、私は戸惑った。
 しかも顔が見たくなった理由は、気になるからだと言う。
 困った、こういう場合はどう答えるべきなのか……。

「私もあの、郁巳先生のことはどんな人なのか気になりますけど……えっ?」
「あ、時間だ」

 話している途中で郁巳先生の腕時計がピーピーと鳴った。
 どうやらオペの時間がアラーム設定されていたようだ。

「ごめん。また今度、話させてもらえる?」
「あ、はい」 
< 71 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop