このドクターに恋してる
 要求があまりにも唐突すぎて、考える時間がなく、受け入れる返事をしてしまった。
 足早に去っていく郁巳先生を目で追いながら、今度どこで話をするつもりなのだろうかと不思議に思った。

 それから三日後の日曜日、思わぬ場所で郁巳先生と話す機会が訪れる。
 部屋の掃除をしているとスマホが鳴った。掃除機のスイッチをオフにして、テーブルに置いていたスマホに近付く。
 画面には『兄』の文字が表示されていた。
 兄は今カフェで仕事中だ。もしかして、美結かな?

「はーい」
『ひなちゃん、みゆだよ』
「うん、どうしたの? 遊びに行こうか?」

 美結はたまに電話を掛けてくることがある。遊ぼうよと言うことがほとんどだ。カフェが大忙しのときは美久さんも駆り出されるため、美結は退屈になって遊び相手に私を呼び出す。
 かわいい姪と遊ぶのは楽しい。だから、予定がない限り了承していた。

『あのねー、おみせにこれるー?』
「お店にいるの? 行けるよ。ちょっと待っていてね」
『うん、わかった-』

 掃除機を片付けて、急いで身支度を整えて、時間を確認する。午後二時になるところだった。
 まだ公園で遊べる時間だな……ボトムスは身軽に動けるジーンズにして、ダウンジャケットを羽織り、自転車を漕ぐ。
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