このドクターに恋してる
「もしかして、ここに来たのは迷惑だった?」
「いいえ、そんなことは……でも、連絡先を知らないと言っていましたが、一度私に電話を掛けてきたことがありますよね?」
「あれは岩見さんの具合を確認するためであって、病院の電話を使っていたからね。今日はプライベートだから、個人情報を持ち出すわけにはいかないでしょう?」
「あー、たしかにそうですね」 

 私はカフェラテに息を吹きかけ、口をつけた。郁巳先生はパンケーキを静かに咀嚼していた。
 郁巳先生のパンケーキが残り少なくなったころ、兄が私のパンケーキを持ってくる。

「お待ちどおさまー」 
「ありがとう」
「うん、ごゆっくりー」

 兄と母から「ごゆっくり」と言われても、ここでゆっくり話せないように思える。
 なぜなら、兄と母がチラチラとこちらの様子を窺っているのが見えるからだ。
 私は二人の視線を気にしつつ、ナイフとフォークを持った。すると、反対にナイフとフォークを皿に置いた、郁巳先生が口を開く。

「肩凝りはどう?」
「あのあと、温湿布を貼ったのでよくなりました」
「そう、よかった」
「はい、郁巳先生のおかげです。ありがとうございます」

 私が笑顔で答えると、郁巳先生はなぜか動揺した。
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