このドクターに恋してる
 私はまた顔を俯かせるしかなかった。
 そのとき、背後からクックッと笑う声が聞こえてくる。

「お冷やのお代わり、いかがですか?」
「ください」

 兄の問いかけに郁巳先生がすかさず反応し、自分のと私のを兄のほうに置いた。
 兄は二つのコップに水を注いで、空いた皿を片付ける。

「いやー、真っ赤になる陽菜を見るのは楽しいね」
「お兄ちゃん! おもしろがるのはやめて」
「はいはい、ごゆっくりー」

 私は離れていく兄を軽く睨んだ。
 やはり家族が近くにいると、ゆっくりできない。
 郁巳先生も私も食べ終えているから、ここを出る?
 出て、お別れする?
 でもまだ、たいした話をしていない。
 場所を移動したらいいのかな……。
 あれこれと考え巡らせ、お冷やに口をつける。
 そのとき、同じように飲んでいた郁巳先生と目が合った。

「あの、これからどうします?」
「えっ?」

 私の問いかけに郁巳先生はキョトンとする。
 聞かれている意味がわかっていないようだった。

「まだここにいます? それとも、帰ります?」
「えっ? そうだな……これからなにか予定ある?」
「特に何もないですけど」
「よかったら、うちに来ない?」
 
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