このドクターに恋してる
 郁巳先生に促された私はエレベーターを先に降りるが、どちらの方向に行ったらいいのかわからない。
 後から降りた郁巳先生が「こっち」と左に歩きだした。
 静かな廊下を奥まで進んでいく途中、私は周囲を見た。隣の部屋と玄関のドアとの間隔が空いていることから、戸数が少ないと思われた。
 奥の部屋のドアの前で立ち止まった郁巳先生はドアの持ち手部分にカードキーをかざし、ロックを解除する。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 またもや先に進むよう促されて玄関に足を踏み入れた私は、固まった。

「どうした?」
「広いですね」
「ああ、まあ、そうかな。スリッパ、どうぞ」

 広い玄関ホールに圧倒されつつ、出してくれた白いスリッパに足を入れる。
 郁巳先生は黒いスリッパを履き、正面に見えるドアまで進んで行った。
 辿りついた部屋はこれまた広いリビングダイニングルームで、私は口を半開きにした。
 
「すごい……広い」
「上着、貸して」
「あ、はい」

 コートを脱いだ郁巳先生に手を差し出され、私はアタフタとダウンジャケットを脱いで渡す。
 郁巳先生は隅にあるハンガーラックにコートとジャケットをかけて、アイボリーのL字型ソファを指差した。
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