このドクターに恋してる
 緊張していた体がさらに強張り、カップを持たずに手を膝に置く。
 郁巳先生は少し腰を浮かせて、自分のマグカップをこちら側に持ってきた。

「リラックスしてもらえると嬉しいけど」
「すみません、緊張していまして」
「居心地、悪い?」
「そんなこと、ないです。とても素敵なお部屋ですし、ここからの眺めも素晴らしいです」
「まあ、悪くはない部屋だよね」

 郁巳先生の言い方はあまりここを気に入っている感じではなかった。

「ここにはどのくらい住んでいるんですか?」
「八年くらいかな」
「八年も前からなんですね」

 郁巳先生は現在、三十四歳だから二十六歳くらいからということになる。
 たぶんその頃は研修医だと思うが、研修医がこのような高級マンションを買えるのだろうか。
 その疑問を聞かずとも、郁巳先生が答えをくれた。

「実は、ここ、父親が購入したんだ」
「あー、お父さんが買われたんですね」
「納得した?」
「もしかして、私の考えていることわかってしまいました?」
「なんとなくね、ここに住んでいることを話すと、だいたいみんな同じことを聞くから」

 郁巳先生は一瞬目を伏せて、カップに口をつけた。
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