このドクターに恋してる
 郁巳先生は苛立っていた。
 宇部先生のことを話すと不機嫌になるのをわかっていたのに、私はどうしてまた宇部先生のことを話してしまったのだろう。
 バカだ……。

「岩見さんは嘘がつけないようだね。思っていることを口に出すのは素直でいいところだと思うよ」
「いいえ、そんな! 私は空気が読めなくて、気遣いができないだけです……」

 いいところだと褒められるようなことがある人間ではない。
 子どもの頃からバカ正直だと言われることも多かった。失言することも多いから、注意してはいるのに……。
 自己嫌悪を陥り、顔を俯かせる私の肩に郁巳先生が触れた。郁巳先生はどんどん落ちていく私の顔を下から覗き込む。
 近付いてきた顔に私はビックリして、思わず立ち上がった。

「わわわわわっ……」
「えっ、ちょっと! 大丈夫?」

 郁巳先生も驚いた顔をした。私の行動を心配しているようだ。

「はい、大丈夫です」

 私は胸を押さえて、座り直した。
 冷静にならなくては……。

「ごめん。何かビックリさせるようなことしたかな?」
「突然郁巳先生の顔が近くに来たから、ビックリしてしまいまして……すみません」
 
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