このドクターに恋してる
「現実かどうか確かめる方法に、頬をつねるとか叩くのが一般的に知られてはいるけれど、何らかの感触を得られたら確かめられるよね?」
「え? はい、まあ、そうだと思いますが……」

 何が言いたいのか、何をしたいのかわからず、私はキョトンとする。
 郁巳先生は目を閉じて、持ち上げていた手を自分の頬に近付けた。
 私の手の甲に郁巳先生の頬が触れる。サラッとした感触と、体温が伝わってきた。
 伝わる熱はたしかに感じられるが、どう反応したらいいのか……私は硬直するしかなかった。
 なにもできずにいる中で、郁巳先生が目を開ける。手はまだ郁巳先生の頬にあった。
 
「どう感じる?」
「はい、あの、少し熱いと思います」
「じゃあ、ここだとどう?」

 手は郁巳先生の耳の下……首に移動されて、ドクドクと脈が伝わってくる。
 
「脈を感じます。なんとなく、速いような……」
「うん、今、ドキドキしているからね」
「えっ、ドキドキ?」

 またもや驚く私に郁巳先生は頷いた。

「緊張しているんだ」
「緊張……ですか?」

 とても緊張しているようには見えなった。
 淡々しているというか、顔色に変化が現れていない。頬は熱かったが、赤みは見られない。

「人に交際を申し込むのは初めてだから」
「そう、なんですね」
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