このドクターに恋してる
 私が微かに頷くと、郁巳先生はなぜか慌て出した。

「あ、今まで誰とも付き合ったことがないというわけではないよ」
「それは、つまり、今までは相手から告白されて付き合っていたということですか?」
「そういうこと……あ、自慢しているわけでもないよ」

 郁巳先生は繋がっていた手を離して、ブンブンと左右に振った。
 私はフフッと笑い声を漏らす。必死に言い訳をする郁巳先生の様子がおかしかったからだ。
 崩れた表情から緊張しているというのが、嘘ではないと感じられた。

「どうして笑っているの?」
「いえ、別に。郁巳先生のようなモテる方に今まで恋人がいなかったとは思っていないですよ。宇部先生くらい付き合っている人がいても不思議はない……あ、ごめんなさい。また宇部先生の話をしてしまいました」

 私は失言を詫び、身を縮みこませた。
 宇部先生の話はしたくないと言われていたのに……。

「いや、俺こそごめん。変に気を遣わせてしまったよね。圭介の話をされるのは嫌だけど、今のは例え話とわかっているから、気にしていないよ」
「それなら、よかったです」
「それで、返事は?」
「あ、えっと……突然すぎて、ちょっと……」

 明確な返事ができなかった。
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