このドクターに恋してる
 憧れている人からの交際の申し込みは、不快でも迷惑でもない。喜ばしいことではあるのだけれど……安易に承諾していいのか迷った。
 その理由には、宇部先生の存在があった。
 宇部先生が好きなのか、郁巳先生が好きなのか……今の自分にはハッキリとした気持ちがない。
 どちらも憧れの人ではあるのだけれども。

「もしかして迷っている?」

 断りもしなかれば、受け入れもしない私の気持ちは見透かされていたようだ。

「すみません。そのとおりで、迷っています」

 正直に答えるしかなかった。

「そうか……うん、返事は急がないから、気持ちが決まったら教えてもらえる?」
「はい、わかりました」

 今すぐに返事をしなくていいと言われて、私はホッとした。

「俺のことを話してもいい?」
「郁巳先生のことですか?」
「家のことはあまり人に言わないんだけど、岩見さんには知ってもらいたい。聞いてもらえる?」
「はい、聞きます」

 私は背中を伸ばして、聞く姿勢を見せる。
 郁巳先生は視線をテーブルに落として、衝撃的なことを言った。
 
「俺の母親は、浅葉憲一(けんいち)の愛人だったんだ」
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