このドクターに恋してる
 浅葉家に引き取られて、初めて八歳上の異母兄と父親の妻に対面したという。

「二人とは今でも大きな壁がある。家では一緒に食事をしたことがないし、話もしたことがない。すれ違ったときにこっちが挨拶しても返してもらったことは一度もなかった。夫の愛人の子なんか憎いのが当たり前だろうけど、孤独を感じたよ。衣食住に困ることはなかったから、父に感謝はしているけどね。大学生からは一人暮らしもさせてもらったし」

 暗い表情で話していた郁巳先生はお父さんへの気持ちを話したとき、少しだけ目に輝きが見えた。
 一人で暮らすようになって、肩身狭い生活から解放されたのかもしれない。

「大学生からはずっと一人暮らしなんですか?」
「うん。好きなところに住んでいいと父が言ってくれてね」
「お父さんも郁巳先生が孤独を感じているのがわかっていたんでしょうね」
「うん……浅葉の家では二人の目があったから、気軽に話しかけられなかったみたいで、俺が大学生になってからはいろんなことを話すようになったんだ。医師になれと父に言われて医学部に進学はしたけど、実のところ嫌々だった。でも、医師としての父を尊敬するようになって、人を助ける仕事をしたいと思うようになった」

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