おやすみ、僕の眠り姫





 すやすやと、気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。

 ……眠った。

 毎日残業、家でも仕事をすることが多くて、常に寝不足。
 今日も資料を広げて1人会議。

 やらないと終わらないから、ともう日付も変わろうというのに書類とノートパソコンに向かう彼女を、無理矢理ベッドに入れた。

「ちょっと、ねえ、困る」
「だめ。あれ、締め切りまでまだ時間あるやつでしょ」
「だって」
「うるさいよ」
 じたばたする彼女をぎゅうっと抱きしめたら、おとなしくなった。
「……あったかい」
「……うん」
 寝息が聞こえてきたのはすぐだった。
 少し腕をゆるめると、くたっと彼女の体が崩れる。
 無防備な寝顔。
 その可愛さに思わず笑ってしまう。
 軽くキスをして、彼女のあったかさを抱きしめる。



 こんな風に眠れるようになったんだ、としみじみ思う。

 付き合う前は、ただ心配して、早く帰るように促して、『寝てください』と言うしかできなかった。部署が違うから仕事も手伝えないし、自分が関わる仕事でスケジュール管理をして、彼女が休めるようにするしかなかった。

 今は、一緒に夕食を摂り、先に風呂に入れ、僕が風呂に入っている間に仕事を始めた彼女をベッドに追い立てて、時には引きずり込んで、日付けが変わる前には一緒に眠りにつく。
 自分が忙しい時もある。以前は彼女のように働き詰め。睡眠時間を削った時もあったけど、今は眠り優先。彼女を眠らせるために、自分も眠るようになった。
 おかげで体調は良くなった。彼女がいてくれるから、精神的にも安定している。
 元々効率重視の仕事のやり方は更に見直し、周りが慄くくらいの早さで進めている。陰で『鬼』と呼ばれ始めたことは承知している。
 彼女も、それまでは顔色が悪い日が多かったけど、それは激減した。僕の上司でもある彼女の親友からは、非常に感謝されているくらいだ。



「……さむ……」
 彼女がうなるように言って、僕の胸にすり寄ってきた。
 背中の方に、布団の隙間ができている。
 彼女を抱き抱えながら、布団をかけ直す。
 頭をなでたら、満足そうに口の端を上げた。もちろん眠ったままだ。
 愛おしくなって、抱き寄せた。
 やわらかくてあったかい彼女の体は、僕のいろんなところを騒つかせるけど、まだ我慢できている。

 自分でも、よく我慢してると思う。
 抱き合ったのは一度だけ。お互いの気持ちを確かめ合って、付き合うと決めた日だ。
 その後、すぐに2人共忙しくなって、会う時間も思うように作れなかった。業を煮やした僕が彼女の家に押しかけて、それが続くようになった。そうして今に至る。
 時々、彼女を押し倒して滅茶苦茶に抱きたい衝動に駆られるけど、それをしたら彼女だけでなく、僕自身も壊れてしまうだろうから、踏みとどまっている。



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