買われた花嫁は冷徹CEOに息もつけぬほど愛される

1・something

 サムシングオールド――なにか古いもの
 サムシングニュー――なにか新しいもの
 サムシングボウロー――なにか借りたもの
 サムシングブルー――なにか青いもの

 結婚式の日、幸せな結婚生活を願って花嫁は四つの『なにか』を身に着ける。
 子供の頃、母親の茜にその話を聞かされた有坂実音は、母に『幸せな結婚ってなに?』と尋ねずにはいられなかった。
 もちろん実音だって幸せになりたい。
 でも、幸せな結婚というのがどんなものかわからなかったし、曖昧な『なにか』に頼るなんて変だと思ったのだ。
 有坂テクトの社長令嬢に生まれ、何不自由ない環境で育てられた実音には、物心ついた頃には既に許嫁がいた。
 母は、父にまかせておけば、幸せな未来が待っていると言うけど、実音の中には、与えられるだけの人生でいいのかなっていう思いがあった。
 正直に言えば、親が決めた許嫁である小松メディカルの御曹司・小松崎遼介が苦手という本音もある。
 自分の幸せが何処にあるのかは、自分で見付けたいと思う。
 結婚だって、曖昧ななにかに頼ることなく、自分に合った幸せの形を見付けたい。
 そんな静かな野望を叶えるべく、箱入り娘として育てられたとは思えない自立心を持った実音は、短大卒業の際、両親の反対を押し切ってYAGAMIという総合企業に就職した。
 社会人五年目、日々の努力を認められて、今では社長秘書を任されるまでになった自分の頑張りをほめてあげたいと実音は思っている。
 素敵な結婚の方は……、今のところ、許嫁との縁談が保留状態となっているのでよしとしている。
 実音としては、先の予定が見えない結婚についてあれこれ悩む暇があるなら、与えられた仕事を頑張りたい。
 それで問題ないと思っていたのだけど……
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