買われた花嫁は冷徹CEOに息もつけぬほど愛される
「よく寝てるな」
自分の腕の中で寝息を立てる実音の様子を窺い、海翔はそっと息を漏らした。
打ちのめされている彼女の姿が痛々しくて、目を離した隙にもろく壊れてしまうような気がして強引に引き止めた。
泣くのなら自分の腕の中で泣いてほしいと、抱きしめた海翔の願いが通じたのか、声を押し殺して泣き続けた実音は、そのまま泣き疲れて眠りに落ちた。
自分の中で眠る実音の温もりを感じると、これはけっして手放してはいけないものだとわかる。
(しかし、すごい偶然だな)
基本海翔は、あまり人間関係に執着しない性格をしている。というか、そうでなければ、心を守れない環境で育った。
収入源ではなくなった父を見限ぎるついでに、息子のことを捨てた母。日々の暮らしに困窮して、自分を残して姿を消した父。
祖父母のように、情があってもどうしようもない別離もある。
人に執着するのが面倒で、過去に交際した女性も、敢えて海翔の資産や名声目当て近寄ってくるような女性とばかり選んで付き合っていた。
そういった女性は、相手の虚栄心を満たす贈り物をしていれば、後腐れなく別れられることを知っていたからだ。それと同時に、金の有無で心変わりするのは、自分の母だけじゃないと納得したかったのかもしれない。
そんな生き方をしてきたおかげで、人との縁というものを諦めるようになっていった。
それなのに、実音のことだけは、なかなか割り切れずにいたのだ。
それで仕事帰り、なんとなく彼女との思い出をなぞるように、以前会食の帰りに彼女を誘ったことがあるバーに立ち寄ったら本人がいて驚いた。
そんな経緯を知らない実音は、二人の再会を『偶然』と話していた。
海翔としては『運命』と思いたいところなのだけど。
それとも、自分の頑張り次第で、『偶然の再会』を、『運命の再会』に変えることはできるのだろうか。
そんなことを考えながら、視線を窓の外に向けると、高層階に位置する自宅リビングからは、半分欠けた月が見える。
普段月を鑑賞する習慣のない海翔には、今見えているそれが、満ちていく途中なのか、欠けていく途中なのかがわからない。
それでも以前、実音と満月を見上げた時、どうしてあの言葉が胸に浮かんだのかが今なら理解できる。
「月が綺麗だな」
泣き疲れて眠る実音の髪に顔を寄せて囁いく。そして、彼女を起こさないよう気をつけながら抱き上げる。
通勤の利便性だけで選んだこのマンションは無駄に広く、部屋のレイアウトを任せたインテリアコーディネーターが使うあてもないゲストルームを作っていた。
誰かを部屋に泊める予定もない海翔には、不要な部屋と思いつつ放置していたが、そのままにしておいてよかった。
海翔は自分の腕の中で眠る実音の温もりを心地よく思いながら、彼女をゲストルームに運んだ。
自分の腕の中で寝息を立てる実音の様子を窺い、海翔はそっと息を漏らした。
打ちのめされている彼女の姿が痛々しくて、目を離した隙にもろく壊れてしまうような気がして強引に引き止めた。
泣くのなら自分の腕の中で泣いてほしいと、抱きしめた海翔の願いが通じたのか、声を押し殺して泣き続けた実音は、そのまま泣き疲れて眠りに落ちた。
自分の中で眠る実音の温もりを感じると、これはけっして手放してはいけないものだとわかる。
(しかし、すごい偶然だな)
基本海翔は、あまり人間関係に執着しない性格をしている。というか、そうでなければ、心を守れない環境で育った。
収入源ではなくなった父を見限ぎるついでに、息子のことを捨てた母。日々の暮らしに困窮して、自分を残して姿を消した父。
祖父母のように、情があってもどうしようもない別離もある。
人に執着するのが面倒で、過去に交際した女性も、敢えて海翔の資産や名声目当て近寄ってくるような女性とばかり選んで付き合っていた。
そういった女性は、相手の虚栄心を満たす贈り物をしていれば、後腐れなく別れられることを知っていたからだ。それと同時に、金の有無で心変わりするのは、自分の母だけじゃないと納得したかったのかもしれない。
そんな生き方をしてきたおかげで、人との縁というものを諦めるようになっていった。
それなのに、実音のことだけは、なかなか割り切れずにいたのだ。
それで仕事帰り、なんとなく彼女との思い出をなぞるように、以前会食の帰りに彼女を誘ったことがあるバーに立ち寄ったら本人がいて驚いた。
そんな経緯を知らない実音は、二人の再会を『偶然』と話していた。
海翔としては『運命』と思いたいところなのだけど。
それとも、自分の頑張り次第で、『偶然の再会』を、『運命の再会』に変えることはできるのだろうか。
そんなことを考えながら、視線を窓の外に向けると、高層階に位置する自宅リビングからは、半分欠けた月が見える。
普段月を鑑賞する習慣のない海翔には、今見えているそれが、満ちていく途中なのか、欠けていく途中なのかがわからない。
それでも以前、実音と満月を見上げた時、どうしてあの言葉が胸に浮かんだのかが今なら理解できる。
「月が綺麗だな」
泣き疲れて眠る実音の髪に顔を寄せて囁いく。そして、彼女を起こさないよう気をつけながら抱き上げる。
通勤の利便性だけで選んだこのマンションは無駄に広く、部屋のレイアウトを任せたインテリアコーディネーターが使うあてもないゲストルームを作っていた。
誰かを部屋に泊める予定もない海翔には、不要な部屋と思いつつ放置していたが、そのままにしておいてよかった。
海翔は自分の腕の中で眠る実音の温もりを心地よく思いながら、彼女をゲストルームに運んだ。