買われた花嫁は冷徹CEOに息もつけぬほど愛される
5・花嫁は二度買われる
閉じた瞼の裏で、眩しい日差しを感じて、実音は布団を頭の上まで引き上げた。
繭に包まるように、肌触りのいい布団の中で丸まっていると微かなアルコールの匂いを感じる。
普段なら感じることのないその香りを不快に思って布団から顔を出した実音は、そこで初めて自分が知らない部屋で寝ていたことに気が付いた。
「え?」
掛け布団をはねのけるようにして上半身を起こすと、カーテンの隙間から差し込む一筋の陽光が視界の邪魔をするので、手をかざして室内を見わたす。
遮光性の高いカーテンで明かりを遮った部屋は薄暗く、室内には、洒落たデザインのベッドとチェスト、後は一人がけのソファーしか置かれていない。
生活感のない室内に、一瞬ホテルにいるのかとも思ったけど、服に染み付いているアルコールの香りで、遼介に受けた仕打ちや、偶然その場に居合わせた海翔に助けられた記憶が芋づる式に蘇ってくる。
「そうだ。あの後、八神さんのマンションに寄って……」
彼に話を聞いてもらい、気持ちの整理をつけて家に帰ろうとしたのは覚えている。
そのために洗面所を借りて、身だしなみを整えようと立ち上がったところで、海翔に手を引かれ……
走馬灯のように蘇る記憶で、自分が青ざめていくのがわかる。
彼に縋るように泣いたところまでしか記憶がないということは、自分はそのまま彼の胸の中で眠ってしまったのだ。
そして彼は、眠ってしまった実音をベッドまで運んでくれたのだろう。
(八神さんに、寝顔を見られたっ! ベッドまで運ばれた?)
そう思うと、さっき血の気が引いた顔に、いっきに熱がぶり返す。
今気にするべきところはそこじゃないと、頭の冷静な部分ではわかっている。だけど、思考から追い払おうとしても、勝手にそのことばかり考えてしまう。
とにかく海翔に、迷惑かけたことをお詫びしなくてはいけない。
そもそも今は何時なのだろう。
有休消化中の自分はともかく、海翔は今日も仕事のはずだ。彼が出勤するまでに、身支度を調えて部屋を出なきゃいけない。
そう考えを纏めた実音は、サイドチェストの上の時計に目をやって愕然とした。
「十時半っ!」
ありえないという気持ちで、窓に駆け寄り勢いよくカーテンを開けると、太陽はかなり高い位置にある。
慌てて部屋を飛び出した実音は、そのままの勢いでリビングに飛び込んだ。
だけど柔らかな日差しの差し込むリビングは静寂に包まれていて、海翔の姿はなかった。その代わりに、ソファーテーブルの上に一枚のメモが残されている。
メモには、そのまま硬筆のお手本に使えそうな海翔の字で、実音に目が覚めた後にするべき指示が書き込まれていた。
彼からの指示は、大きく分けて二つ。
まず一つは、起きたらまずこのマンションのフロントに電話をすること。もう一つは、整容を整えて、この部屋で彼が帰ってくるまで、待つようにとのことだった。
以前仕事の合間の座談として、彼の暮らすマンションは、ホテルのような豪奢な造りをしているだけでなく、それこそ一流ホテルにも劣らないサービスを提供してくれるコンシェルジュが常駐しているのだと話していたのを思い出す。
なんのために連絡するのかは不明だけど、とりあえず彼の指示に従おうと、実音は彼が残してくれたメモに従い、内線を使ってフロントに連絡を入れた。
繭に包まるように、肌触りのいい布団の中で丸まっていると微かなアルコールの匂いを感じる。
普段なら感じることのないその香りを不快に思って布団から顔を出した実音は、そこで初めて自分が知らない部屋で寝ていたことに気が付いた。
「え?」
掛け布団をはねのけるようにして上半身を起こすと、カーテンの隙間から差し込む一筋の陽光が視界の邪魔をするので、手をかざして室内を見わたす。
遮光性の高いカーテンで明かりを遮った部屋は薄暗く、室内には、洒落たデザインのベッドとチェスト、後は一人がけのソファーしか置かれていない。
生活感のない室内に、一瞬ホテルにいるのかとも思ったけど、服に染み付いているアルコールの香りで、遼介に受けた仕打ちや、偶然その場に居合わせた海翔に助けられた記憶が芋づる式に蘇ってくる。
「そうだ。あの後、八神さんのマンションに寄って……」
彼に話を聞いてもらい、気持ちの整理をつけて家に帰ろうとしたのは覚えている。
そのために洗面所を借りて、身だしなみを整えようと立ち上がったところで、海翔に手を引かれ……
走馬灯のように蘇る記憶で、自分が青ざめていくのがわかる。
彼に縋るように泣いたところまでしか記憶がないということは、自分はそのまま彼の胸の中で眠ってしまったのだ。
そして彼は、眠ってしまった実音をベッドまで運んでくれたのだろう。
(八神さんに、寝顔を見られたっ! ベッドまで運ばれた?)
そう思うと、さっき血の気が引いた顔に、いっきに熱がぶり返す。
今気にするべきところはそこじゃないと、頭の冷静な部分ではわかっている。だけど、思考から追い払おうとしても、勝手にそのことばかり考えてしまう。
とにかく海翔に、迷惑かけたことをお詫びしなくてはいけない。
そもそも今は何時なのだろう。
有休消化中の自分はともかく、海翔は今日も仕事のはずだ。彼が出勤するまでに、身支度を調えて部屋を出なきゃいけない。
そう考えを纏めた実音は、サイドチェストの上の時計に目をやって愕然とした。
「十時半っ!」
ありえないという気持ちで、窓に駆け寄り勢いよくカーテンを開けると、太陽はかなり高い位置にある。
慌てて部屋を飛び出した実音は、そのままの勢いでリビングに飛び込んだ。
だけど柔らかな日差しの差し込むリビングは静寂に包まれていて、海翔の姿はなかった。その代わりに、ソファーテーブルの上に一枚のメモが残されている。
メモには、そのまま硬筆のお手本に使えそうな海翔の字で、実音に目が覚めた後にするべき指示が書き込まれていた。
彼からの指示は、大きく分けて二つ。
まず一つは、起きたらまずこのマンションのフロントに電話をすること。もう一つは、整容を整えて、この部屋で彼が帰ってくるまで、待つようにとのことだった。
以前仕事の合間の座談として、彼の暮らすマンションは、ホテルのような豪奢な造りをしているだけでなく、それこそ一流ホテルにも劣らないサービスを提供してくれるコンシェルジュが常駐しているのだと話していたのを思い出す。
なんのために連絡するのかは不明だけど、とりあえず彼の指示に従おうと、実音は彼が残してくれたメモに従い、内線を使ってフロントに連絡を入れた。